目が覚めた瞬間、体が固まっていて動けない。腰が痛くて起き上がれない。しばらく動いているうちに軽くなるけれど、その最初の数分がつらい。
こうした訴えは、腰の相談の中でもよく出てきます。
そして多くの方が、目が覚めたらすぐ起き上がろうとします。 痛みがあっても、我慢して体を起こす。あるいは、痛みが引くまで横になったまま待つ。
臨床でお伝えしているのは、その中間です。
寝たまま、少し動かしてから起き上がる。
これだけで、朝の状態は変わります。「やらないよりマシ」という程度ではありません。 実際に指導すると、起き上がるときの感覚が明らかに違うと言われます。
しかも、費用はかかりません。特別な道具も要りません。目が覚めてから数分の話です。
この記事では、理学療法士として病院、施設、クリニックなどで9,000件以上のリハビリに携わってきた経験をもとに、次のことを説明します。
- なぜ朝は動きにくいのか
- 寝たままできる動きの手順
- 座ってからできること
- 続けるためのコツ
なぜ、朝は動きにくいのか
まず、何が起きているかを整理します。
睡眠中は、一日で最も動かない時間です。
日中は、意識しなくても体を動かしています。座っていても姿勢を変えますし、立ち上がる、歩く、振り返るといった動作が入ります。動くことで、関節も筋肉も繰り返し使われています。
眠っている間は、この量が大幅に減ります。寝返りは打ちますが、日中に比べれば動きは限られます。
同じ姿勢で数時間過ごせば、関節も筋肉もその位置で固定されます。 朝起きたときの動かしにくさは、ここから来ています。
年齢を重ねると、この影響は強く出ます。もともと動く範囲が狭くなっていたり、筋肉が硬くなっていたりすると、動かない時間の影響がより大きくなるためです。
問題は「急に動くこと」
ここが重要な点です。
数時間まったく動いていない状態から、いきなり起き上がる。体にとっては、かなり急な変化です。
固まった状態のまま、体を起こすという大きな動作をする。その瞬間に痛みが出るというのは、自然なことです。
臨床でよく聞くのが、「起き上がる瞬間が一番つらい」という言葉です。寝ている間ではなく、起き上がる動作そのもので痛みが出ているというケースがあります。
だとすれば、対処は簡単です。急に動かなければいい。
小さい動きから始めて、段階的に大きくしていく。動かない時間から動く時間への移行を、緩やかにするという考え方です。
💬 理学療法士のひとこと
目が覚めてすぐ起き上がる方が多いのですが、そこに数分入れるだけで違います。寝たまま少し動かしてから起きる。これを習慣にしてほしいです。
第一段階:寝たままできる動き
目が覚めたら、まず仰向けのまま次を行ってください。
足首を曲げ伸ばしする
最初に行う動きです。
仰向けのまま、足首をゆっくり曲げたり伸ばしたりします。つま先を手前に引く、そして伸ばす。これを数回繰り返します。
体の末端から始めるのが基本です。 小さく、負担の少ない動きから入ります。
膝を曲げ伸ばしする
次に、片脚ずつ膝を曲げて、また伸ばします。かかとを布団の上で滑らせるようにすると、力を使わずにできます。
痛みが出ない範囲で行ってください。無理に大きく動かす必要はありません。
両膝を立てて、左右に倒す
腰を動かす動きです。
仰向けのまま両膝を立て、そろえたまま左右にゆっくり倒します。倒せる範囲でかまいません。膝が床につくまで倒す必要はありません。
この動きで、腰まわりが動きます。 固まっていた部分がほぐれてくる感覚がある方もいます。
ゆっくり、数回。反動をつけないでください。
この動きが特に効きやすい理由
腰まわりは、寝ている間に最も長く同じ位置で固定されている部分のひとつです。とくに仰向けで寝ている場合、腰の位置はほとんど変わりません。
膝を立てて左右に倒す動きは、腰を大きな負担なく動かせる数少ない方法です。立った状態で腰をひねろうとすると、体重がかかった状態で動かすことになります。寝たままなら、その負担がありません。
重力の影響を受けにくい姿勢で、先に動かしておく。 これが、起き上がる前にこの動きを入れる意味です。
なお、膝を床につけようとしないでください。 目的は可動域を広げることではなく、動かない時間を終わらせることです。倒せる範囲で十分です。
横向きになってみる
寝返りの動きです。両膝を立てて、その膝を起きたい側へ倒し、その動きに肩と頭がついていく形で横を向きます。
肩だけを先に回さないでください。 膝が先、上半身が後です。こうすると腰のねじれが小さくなります。
ここまでが、寝たままの段階です。
第二段階:座ってからできること
横向きになったら、両脚をベッドの端から下ろし、下側の肘で押しながら上体を起こします。
起き上がったら、すぐ立たないでください。
座った状態で、次のことができます。
上体をゆっくり回す
座ったまま、上半身を左右にゆっくりひねります。背中まわりが動きます。
無理に大きく回す必要はありません。動く範囲で、ゆっくり。
脚を伸ばしてみる
片脚ずつ、膝を伸ばして前に出します。太ももの裏側が伸びる感覚があれば、その位置で数秒保ちます。
痛みが出るところまで伸ばさないでください。 伸びている感覚がある位置で十分です。
足踏みをする
座ったまま、足を交互に上げ下げします。立ち上がる前に、脚を使う準備になります。
一呼吸おいてから立つ
座った状態で数秒待ってから立ち上がってください。急に立つとふらつくことがあります。
とくに夜間や、薬を服用している方は注意してください。
全体の流れ
まとめると、次の順序になります。
1. 目が覚める(すぐ起き上がらない)
2. 仰向けのまま、足首を曲げ伸ばし
3. 膝を曲げ伸ばし
4. 両膝を立てて左右に倒す
5. 膝から先に倒して、横向きになる
6. 脚を下ろし、肘で押して起き上がる
7. 座ったまま、上体を回す・脚を伸ばす・足踏み
8. 一呼吸おいてから立つ
全部で数分です。
そして重要なのは、小さい動きから大きい動きへ、という順序です。末端から始めて、体幹に移り、最後に全身を使う動作に進む。この順序に意味があります。
いきなり起き上がるのは、この過程を全部飛ばして最後の動作だけをやっているのと同じです。
なぜ足首から始めるのか
順序に理由があります。
足首の曲げ伸ばしは、体の中で最も負担の小さい動きです。腰や背中にはほとんど影響しません。目が覚めた直後、まだ何も動かしていない状態でも、無理なくできます。
そして、足首を動かすとふくらはぎの筋肉が使われます。 脚の血の巡りにも関わる部分です。起き上がったときのふらつきを防ぐという意味でも、最初に動かしておく価値があります。
次に膝、そして腰へと、体の中心に近づいていきます。 中心に近い部分ほど、動かしたときの影響が大きくなります。だから後にします。
最後に、起き上がるという最も大きな動作をする。
この順序を守ると、起き上がる時点では、すでに体はある程度動いた状態になっています。急な変化ではなくなっているわけです。
座ってからの一段階を飛ばさない
もう一つ、見落とされやすいのが座った状態での準備です。
寝ている姿勢と立っている姿勢の間には、大きな差があります。座るという段階は、その中間にあります。
ここで体を回す、脚を伸ばす、足踏みをする。立ち上がる前に、立つときに使う部分を動かしておくことになります。
そして、座った状態で数秒待つこと自体にも意味があります。横になった状態から急に立つと、ふらつくことがあります。 夜間や、薬を服用している方ではとくに注意が必要です。
続けるためのコツ
全部やろうとしなくてよい
手順が多く感じられるかもしれません。まずは一つか二つから始めてください。
とくに効果を感じやすいのは、両膝を立てて左右に倒す動きです。ここだけでも入れてみてください。
時間を決めない
「何分やる」と決めると続きません。目が覚めてから、動きたくなるまででかまいません。
痛い日は減らす
体の状態は日によって変わります。つらい日は無理にやらないでください。 足首だけ動かして起きる、という日があってもかまいません。
痛みが出たら止める
伸ばして痛い、動かして痛い。そこまでやる必要はありません。 痛みが出ない範囲が、その日の適量です。
夜にもやると、なお良い
寝る前に同じ動きをしておくと、眠りに入る時点の体の状態が変わります。 硬いまま眠れば、硬いまま朝を迎えます。
入浴後に行うと、体が温まっているぶん動かしやすくなります。温めてから動かすという順序が効率的です。
💬 理学療法士のひとこと
続かない量を設定しないことが一番大事です。全部やる日もあれば、足首だけの日もある。それでいいんです。
セルフチェック|効果を確認する
手順1:今の状態を覚えておく
まず数日、いつも通りに起き上がってください。起き上がるときの痛みの程度、動きにくさを覚えておきます。
手順2:準備を入れてみる
翌週から、寝たままの動きを入れてから起き上がります。
手順3:起き上がるときの感覚を比べる
起き上がる動作そのものが楽になっているかを確認してください。
手順4:日中への影響を見る
朝の痛みが引くまでの時間が変わったか。午前中の状態が違うか。
手順5:数日続けて判断する
一日では分かりません。一週間程度続けて、変化があるかを見てください。
手順6:変わらなければ、別の要因を考える
これで変わらない場合、寝ている間の姿勢や寝具の条件、あるいは別の原因を確認する必要があります。
医療機関に相談したほうがよい場合
- 脚のしびれや、力の入りにくさがある
- 動かそうとすると強い痛みが走る
- 横になって安静にしていても痛みが続く
- 夜間、痛みで目が覚める
- 起き上がるのに、以前より明らかに時間がかかるようになった
- 起き上がった直後にふらつく、めまいがする
- 発熱を伴う
動かすと強い痛みが出る場合は、自己判断で続けないでください。
よくある質問
Q1. どのくらいの時間をかければよいですか。
数分で十分です。時間より、順序のほうが大事です。小さい動きから大きい動きへ。この流れを守れば、短くてもかまいません。
Q2. 痛くて動かせない日はどうすればよいですか。
無理に行わないでください。動かせる範囲だけで十分です。 足首を動かすだけの日があってもかまいません。強い痛みが続く場合は、相談してください。
Q3. これをやれば、寝具は替えなくてよいですか。
これで朝の状態が改善するなら、寝具の問題ではなかった可能性があります。費用のかからない対処から試すのが順序として正しいです。それでも変わらない場合に、寝具の条件を確認してください。
Q4. 夜中にトイレで起きるときも、同じようにしたほうがよいですか。
同じ順序でできれば理想的ですが、夜中に毎回行うのは現実的ではありません。 せめて、膝を先に倒して横向きになる、座ってから一呼吸おいて立つ。この二つだけでも意識してください。夜間は転倒の危険もあるため、急がないことが大事です。
Q5. 家族が起き上がるのを手伝う場合、どうすればよいですか。
上体を引き起こすのではなく、膝を倒す動きと、脚を下ろす動きを補助するほうが、双方にとって負担が小さくなります。引き起こす介助は、介助する側の腰を痛める原因にもなります。
Q6. 布団で寝ています。同じようにできますか。
寝たままの動きは同じようにできます。違うのは、起き上がったあとです。
床から立ち上がる動作は、ベッドからよりも大きな力が必要になります。膝を深く曲げた姿勢を経由するため、膝や股関節に痛みがある方には負担が大きくなります。
この場合、座った状態での準備をより丁寧に行ってください。上体を回す、脚を伸ばす、足踏みをする。そのうえで、近くの家具などに手をついて立ち上がるようにすると、負担が減ります。
Q7. これは毎朝続けないと意味がないですか。
毎日できるのが理想ですが、できない日があっても、やった日の分は効いています。 続けることを目標にしすぎると、一度できなかったときにやめてしまいます。
思い出したときにやる、くらいの気持ちで始めてください。やらない日があることを前提にしておくほうが、結果的に長く続きます。
まとめ
最後に要点を整理します。
- 朝に動きにくいのは、数時間まったく動いていない状態から急に大きく動くため
- 対処は、寝たまま小さい動きから始めて、段階的に大きくしていくこと
- 寝たままの順序は、足首の曲げ伸ばし、膝の曲げ伸ばし、両膝を立てて左右に倒す
- 起き上がったら、座ったまま上体を回す、脚を伸ばす、足踏みをしてから立つ
- 全部で数分。続かない量を設定せず、つらい日は減らしてよい
まずは「両膝を立てて左右に倒す」だけでも入れてみてください。ここだけで変化を感じる方がいます。

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