年齢とともに背中が丸くなってきた。仰向けで寝ると首が苦しい、あるいは腰が浮いて落ち着かない。
こうした相談を受けることがあります。そして情報を調べると、「背中が丸いと仰向けは難しい」と書かれていることが多いようです。
ただ、臨床で見ていると、実際はもう少し複雑です。
背中が丸い方の中にも、仰向けで問題なく寝られる方がいます。 そして寝られない方もいます。同じように背中が丸く見えても、結果が分かれるのです。
この違いは、丸みの正体が何かによって決まります。
骨そのものが変形している場合と、姿勢の癖として丸くなっている場合。この二つは、見た目が似ていても中身がまったく違います。 そして対処も変わります。
この記事では、理学療法士として病院、施設、クリニックなどで9,000件以上のリハビリに携わってきた経験をもとに、次のことを解説します。
- 二種類の円背の違いと、見分け方
- なぜ一方は仰向けで寝られて、一方は寝られないのか
- それぞれに対して、寝るときにどうするか
- 枕の高さをどう考えるか
背中の丸みには、二つの種類がある
まず、区別から始めます。
骨そのものが変形している場合
背骨は、いくつもの骨が積み重なってできています。この一つひとつの骨の形が変わり、前側がつぶれたような状態になると、背骨全体が前に傾いた形で固定されます。
この場合、背中の丸みは戻りません。 力を抜いても、横になっても、その形のままです。骨の形が変わっているのですから、姿勢を意識しても変わりようがありません。
仰向けで寝られないのは、多くの場合こちらです。
姿勢の癖として丸くなっている場合
もう一つが、骨の形は保たれているのに、立ったときの姿勢として丸くなっている場合です。
たとえば、骨盤が前方にずれた姿勢を取ると、バランスを取るために上半身が後ろに引かれ、背中が丸くなります。あるいは、腹筋や背筋の働きが弱くなり、立っているときに姿勢を保ちきれない場合もあります。
このタイプの特徴は、条件が変われば形も変わることです。立っているときは丸く見えても、横になれば背中は伸びます。
この場合、仰向けで意外と問題なく寝られます。 立位で見た印象から「この方は仰向けは難しいだろう」と思っても、横になってもらうと平気だった、ということがあります。
臨床でよく見るのが、立ち姿だけで判断すると外れるというパターンです。丸みの程度が同じくらいに見えても、寝てもらうと結果が違う。必ず横になった状態で確認します。
実際には、両方が混ざっていることが多い
正確に言うと、この二つはきれいに分かれるわけではありません。
多くの方は、両方の要素を持っています。 骨の変形がある程度進んでいて、そこに姿勢の癖が加わっている。あるいは、姿勢の癖が長く続いた結果、骨のほうにも変化が出始めている。
順序としては、姿勢の癖が先にあることが多いと考えられます。長年その形で過ごせば、その位置で組織が固まってきます。背中を伸ばす動きが減れば、伸ばす能力自体も落ちていきます。
問題は、どちらの要素が大きいかです。
姿勢の癖の要素が大きいなら、変えられる余地があります。骨の変形の要素が大きいなら、形を変えるのではなく、その形で楽に過ごせる条件を整えるほうに切り替えます。
この判断を間違えると、努力の方向がずれます。骨が変形している方が「姿勢を良くしよう」と頑張っても、報われません。逆に、姿勢の癖の段階なのに「もう治らない」と諦めてしまうのも、もったいない話です。
だからこそ、自分がどちらに近いのかを知っておく価値があります。
💬 理学療法士のひとこと
立っている姿だけでは判断できません。横になったときにどうなるかを見ないと、対処の方向が決まらないんです。
なぜ、一方は仰向けで寝られないのか
構造の話をします。
仰向けになると、体は寝具に接します。背骨が自然なカーブを保っていれば、背中とお尻が接し、腰はわずかに浮きます。頭は自然に寝具につきます。
骨の変形で背中が丸くなっている場合、この形が成立しません。
背中の丸みの一番出っ張った部分が、最初に接します。するとその一点で体重を受けることになります。周囲は浮いたままです。
さらに問題なのが、頭の位置です。
背中が前に傾いた形で固定されていると、その上に乗っている首と頭も前に出ます。仰向けになると、頭は寝具から浮こうとします。浮いた頭を無理に寝具につけようとすれば、首が強く反ります。
首が反った状態が続けば、首や肩に負担がかかります。息苦しさを感じる方もいます。
「仰向けになると首が苦しい」という訴えは、この状態を指していることが多いと考えられます。
さらに、この状態には別の影響もあります。
首が反ると、顎が上を向いた姿勢になります。この姿勢では、喉の周りが引き伸ばされた状態になり、息苦しさや飲み込みにくさを感じる方がいます。仰向けを避ける理由が、腰でも首でもなく呼吸のしにくさだったというケースもあります。
もう一つが、腕の位置です。背中が前に傾いた形で固定されていると、肩も前に出ます。仰向けになったとき、肩が寝具から浮こうとするため、腕の置き場所が定まりません。腕を体の横に置くと肩が引っ張られ、お腹の上に乗せると重さがかかる。どこに置いても落ち着かないという感覚になります。
これらはいずれも、背骨の形が変わったことから連鎖して起きています。首だけ、腰だけを見ていても解決しません。
一方、姿勢の癖として丸くなっている場合、横になれば背中は伸びます。頭も自然に寝具に届きます。だから問題が起きにくいのです。
見分け方|壁と寝具で確認する
自分がどちらかを確認する方法です。
手順1:壁に背中をつけて立つ
かかとを壁から少し離し、お尻を壁につけて立ちます。この状態で、後頭部が自然に壁につくかを確認してください。
顎を引いたり、意識して首を後ろに引いたりせず、自然な状態でどうかを見ます。
手順2:意識して背筋を伸ばしてみる
後頭部が壁につかない場合、意識して背筋を伸ばしてみてください。それでつくなら、姿勢の癖の要素が大きいと考えられます。
どれだけ意識してもつかないなら、骨の変形が関わっている可能性が高くなります。
手順3:寝具の上で仰向けになる
枕を外した状態で仰向けになります。頭が自然に寝具につくか。 首の後ろに大きな隙間ができていないか。
手順4:背中の接し方を確認する
背中の一か所だけが強く当たっている感覚があるか。周囲が浮いている感じがあるか。一点で受けているなら、骨の変形の可能性を考えます。
手順5:家族に横から見てもらう
自分では確認しにくい部分です。仰向けに寝た状態を横から見てもらい、頭が浮いていないか、首が反っていないかを確認してもらってください。
手順2で意識してもつかない、かつ手順3で頭が浮く。この二つが当てはまるなら、次に説明する対処が必要になります。
骨の変形がある場合、どうするか
対処は大きく二つです。
対処その一:高さで補う
頭が浮くなら、その分の高さを足します。
枕を高くする、という単純な話です。ただし、いくつか注意点があります。
首だけを持ち上げない
高い枕で頭だけを持ち上げると、首の付け根に負担が集中します。頭から首、肩にかけて、連続して支える必要があります。枕の位置を肩に近いところまで持ってくる、あるいは肩の下にもタオルを入れて段差をなくすといった工夫が有効です。
背中側にも支えを入れる
背中の一点で体重を受けている場合、その周囲に隙間ができています。浮いている部分にタオルなどを入れて、接する面積を増やすと、一点への集中が減ります。
高さは実際に寝て決める
数値では決められません。仰向けになって、首が苦しくないか、頭が安定しているかで判断してください。家族に横から見てもらうと確実です。
買う前にタオルで試す
いきなり高い枕を買う必要はありません。今使っている枕の下にバスタオルを敷いて、高さを足すことから始めてください。畳む回数を変えれば、細かく調整できます。
自分に必要な高さが分かってから、その高さの枕を探すほうが確実です。専用の枕は形が固定されているため、買ってから合わないと調整できません。
なお、市販の枕には「高め」「低め」といった表示がありますが、これは平均的な体格を想定したものです。背中の丸みがある方の場合、その想定から外れます。 表示を信用するより、自分の体で確認してください。
対処その二:横向きで寝る
高さの調整で解決しない場合、横向きをすすめます。
横向きでは、背中の丸みが問題になりません。頭の位置は肩幅の分だけ枕で埋めればよく、仰向けより条件が単純になります。
臨床でも、変形がはっきりしている方には横向きをすすめることが多いです。無理に仰向けにこだわるより、楽に眠れる姿勢を選ぶほうが現実的だからです。
横向きの場合は、次の点を確認してください。
枕の高さは肩幅に合わせる
仰向けのときより高さが必要になります。頭が下がって首が横に曲がっていないかを確認します。
膝の間にクッションを挟む
上側の脚が前に落ちると、骨盤がねじれます。挟むことで防げます。
症状のある側を上にする
痛みがある場合は、その側を下にしないでください。
💬 理学療法士のひとこと
仰向けが理想だという情報をよく見かけますが、体の形が変わっている方に当てはめる必要はありません。楽に眠れる姿勢が、その方にとっての正解です。
姿勢の癖として丸い場合、どうするか
こちらは、寝るときの対処よりも日中の姿勢のほうが課題になります。
寝るときは、仰向けで問題なく眠れることが多いためです。ただし、次の点は確認してください。
枕が高すぎないか
立位で丸くなっている方が、その印象で高い枕を使っていることがあります。横になれば背中は伸びるため、高い枕は不要です。 高すぎると、今度は首が前に曲がった状態になります。
腰の下に隙間ができていないか
姿勢の癖として丸くなっている方の中には、骨盤が前方にずれた姿勢の方がいます。この場合、仰向けになると腰の下に隙間ができることがあります。
膝の下に薄いクッションを入れると、腰の反りが減って隙間が小さくなります。効果はその場で分かります。
日中の立ち方を見直す
片脚に体重を預ける、お腹を前に出して寄りかかる。こうした立ち方が背中の丸みを作っている場合があります。気づいたときに直すだけでも変わります。
姿勢の癖の段階なら、変えられる余地があります。 骨の変形が進んでからでは戻せません。この違いは大きいです。
寝具の側で確認すること
確認1:硬すぎないか
硬い寝具では、背中の出っ張った部分が沈みません。一点で体重を受ける状態が強まります。 背中が丸い方には、ある程度沈み込む余地が必要です。
確認2:柔らかすぎないか
逆に沈み込みが深すぎると、腰だけが落ちて姿勢が崩れます。また、寝返りに体を持ち上げる力が必要になります。
確認3:厚みが足りているか
お尻の下に手を入れて、床やベッド板の硬さが伝わってこないか。潰しきっている場合、表面の性質は関係なくなります。
確認4:寝返りが打てているか
朝、寝具がまったく乱れていないなら、夜のあいだほとんど動いていない可能性があります。一点で体重を受け続けることになるため、背中が丸い方ではとくに注意が必要です。
医療機関に相談したほうがよい場合
- 背中の丸みが、この一年で明らかに進んだ
- 身長が以前より低くなった
- 背中や腰に、これまでなかった痛みが出てきた
- 転倒したあとから、背中が丸くなった、または痛みが出た
- 仰向けになると息苦しい
- 脚のしびれや、力の入りにくさがある
- 食事の量が変わっていないのに体重が減っている
丸みが急に進んだ場合や、痛みを伴う場合は、骨の状態を確認しておいてください。
よくある質問
Q1. 背中が丸いのは、もう治らないのですか。
骨の変形が起きている場合、形そのものを元に戻すことはできません。ただし、姿勢の癖として丸くなっている部分は変えられる余地があります。 どちらの要素が大きいかで、取り組む内容が変わります。
Q2. 高い枕を使っていますが、朝に首が痛みます。
頭だけを持ち上げていて、首の付け根に負担が集中している可能性があります。枕の位置を肩に近づける、肩の下にもタオルを入れて段差をなくす、といった工夫を試してください。それでも痛む場合は、横向きへの変更を検討してください。
Q3. 横向きばかりだと、肩が痛くなります。
横向きでは肩の一点に体重が集中します。寝具が硬すぎる可能性があります。ある程度沈み込む余地があれば、接する面積が増えて圧力が分散します。また、左右を交互に変えることも有効です。
Q4. 背中の下にタオルを入れると聞きましたが、どこに入れればよいですか。
浮いている部分です。仰向けになって、背中と寝具の間に隙間ができている場所を探してください。丸みの出っ張った部分の上下に隙間ができていることが多いので、そこを埋める形になります。厚みは薄いものから試してください。
Q5. 仰向けで寝られないままで問題ありませんか。
問題ありません。横向きで楽に眠れているなら、それで十分です。仰向けが理想だという前提のほうを疑ってください。 ただし、以前は仰向けで眠れていたのに最近できなくなった、という変化がある場合は、原因を確認する価値があります。
まとめ
最後に要点を整理します。
- 背中の丸みには、骨の変形によるものと、姿勢の癖によるものがある
- 見た目が似ていても中身は違い、仰向けで寝られるかどうかが分かれる
- 骨の変形がある場合は頭が浮き、無理につけようとすると首が反る
- 姿勢の癖なら、横になれば背中は伸びるため、仰向けでも寝られることが多い
- 見分け方は、壁に背をつけて後頭部が自然につくか、意識してつくかどうか
骨の変形がある場合は、枕の高さで補うか、横向きで寝るかの二択になります。無理に仰向けにこだわる必要はありません。
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