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腰を痛めにくい起き上がり方|理学療法士が朝の一動作を解説

朝、ベッドから起き上がるときに腰が痛む。

この訴えは、寝具の相談と並んでよく聞くものです。そして寝具を見直すより先に、起き上がり方そのものを変えるだけで楽になる方が、実は少なくありません。

起き上がりは、一日に何度も繰り返す動作です。朝起きるとき、昼に横になったあと、夜中にトイレで起きるとき。一回あたりの負担が小さくても、毎日積み重なれば無視できません。

臨床で見ていると、腰を痛めやすい起き上がり方には、はっきりした二つのパターンがあります。ひねりが入りすぎる起き方と、まっすぐ腹筋だけで起き上がる起き方です。

興味深いのは、この二つが真逆だということです。ひねりすぎと、ひねらなすぎ。つまり答えは「ひねらないこと」でも「思い切りひねること」でもなく、適切な量のひねりを使うことにあります。

この記事では、理学療法士として病院、施設、クリニックなどで9,000件以上のリハビリに携わってきた経験をもとに、次のことを解説します。

  • 腰を痛めやすい二つの起き方と、それぞれ何が起きているのか
  • 負担の少ない起き上がりの手順
  • うまくできないときに、どこでつまずいているか
  • 寝具側で変えられること

なお、床から立ち上がる動作については別の記事で扱っています。この記事はベッドや布団から上体を起こすまでに絞ります。


腰を痛めやすい起き方、その一:ひねりが入りすぎる

まず一つ目のパターンです。

仰向けの状態から、上半身だけを先にねじって起き上がろうとする動きです。肩を先に回し、腰から下は仰向けのまま残る。この形になると、上半身と骨盤の間でねじれが集中します。

背骨は、部位によって得意な動きが違います。腰の部分は、実はねじる動きが得意ではありません。 前後に曲げ伸ばしする動きは大きくできますが、回旋の可動範囲はそれほど大きくないのです。ねじりの多くは、本来もっと上の胸の部分が担当します。

胸の部分が硬くなっていると、そこで回れない分を腰が引き受けることになります。苦手な動きを、苦手な部位が、寝起きの体でやる。 これが痛みにつながります。

しかも起き上がりの瞬間は、体重を支えながら動く場面です。ねじりと荷重が同時にかかるため、負担が集中しやすくなります。

臨床でよく見るのが、「特定の方向に向くときだけ痛い」という訴えです。左に起きるときは平気だが右はつらい、というように左右差が出ることがあります。この場合、起き上がりの動作そのものを確認します。

もう一つよく見るのが、寝具が柔らかいほど、この起き方になりやすいということです。体が沈んでいると、下半身が寝具に沈み込んだまま固定されます。すると上半身だけを回すしか方法がなくなり、意図しなくてもねじれが腰に集中します。本人の動作の癖ではなく、寝具の条件がその動きを強制しているケースです。

この場合、起き上がり方をいくら練習しても、寝具が変わらなければ元に戻ります。動作の指導だけで解決しないときは、寝ている環境のほうを確認する必要があります。

💬 理学療法士のひとこと
腰はねじるのが得意な場所ではありません。ここを知っているだけで、動作の選び方が変わります。


腰を痛めやすい起き方、その二:まっすぐ腹筋だけで起き上がる

二つ目は、逆のパターンです。

仰向けのまま、体をまっすぐ持ち上げて起き上がる。腹筋運動と同じ形です。学生時代の体育を思い出す動きですが、日常の動作としては負担の大きい方法です。

何が起きているか。

上半身の重さを、そのまま持ち上げることになります。 頭と両腕を含めた上半身は、体重のかなりの割合を占めます。この重さを、腰から上だけの力で引き上げる形になります。

支えを一切使えません。 腕で押す、脚の重さを使う、といった補助が入りません。すべてを体幹の筋肉でまかなうことになります。

腰の部分が丸まった状態で力がかかります。 起き上がる瞬間、腰は丸くなります。丸くなった状態で強い力がかかることが、腰への負担を増やします。

このパターンで多いのは、若い頃からその起き方を続けてきた方です。以前は問題なくできていたため、動作そのものを疑いません。しかし筋肉の量が減り、関節の動く範囲が狭くなってくると、同じ動作の負担は年々大きくなります。動作は変わっていないのに、体のほうが変わっているわけです。

臨床でよく聞くのが、「昔から同じように起きているのに、最近だけ痛い」という言葉です。この場合、原因は動作の変化ではなく、動作を支える能力の変化にあります。

そしてこのパターンには、もう一つ厄介な点があります。起き上がれてしまうということです。

痛みが出ても、動作自体は完了します。だから「できているのだから問題ない」と判断されやすい。しかし、できることと負担がないことは別です。毎日繰り返す動作で、毎回無理をしているという状態が、気づかれないまま続きます。

朝の一回だけなら影響は小さいかもしれません。しかし夜間にトイレで起きる回数が増えていれば、一晩に何度も同じ負担がかかります。回数が増えるほど、動作の選び方の重要性は上がります。


負担の少ない起き上がりの手順

では、どうすればよいか。手順で示します。

手順1:まず両膝を立てる

仰向けのまま、両膝を曲げて足の裏をベッドにつけます。この時点で腰の反りが減り、次の動作に移りやすくなります。

手順2:体全体で横を向く

ここが最も重要です。肩だけを先に回さないでください。 立てた両膝を起きたい側へ倒し、その動きに肩と頭がついていく形にします。膝が先、上半身が後です。

こうすると、上半身と骨盤が一緒に回るため、腰の部分でのねじれが小さくなります。ひねりを使わないのではなく、ひねりを分散させるという考え方です。

手順3:両脚をベッドの外へ下ろす

横向きになったら、両脚をそろえたままベッドの端から下ろします。ここで脚の重さが下向きに働きます。この重さが、上半身を起こす助けになります。

手順4:下側の肘で押す

下になっているほうの肘をベッドについて、そこを支点に上体を押し上げます。同時に、上になっているほうの手のひらを胸の前あたりについて押します。

脚が下がる力と、腕で押す力。この二つを組み合わせることで、腹筋だけに頼らずに起き上がれます。

手順5:座った位置で一呼吸おく

起き上がったら、すぐに立たずに数秒座ったままでいてください。急に立ち上がるとふらつくことがあります。とくに夜間や、薬を服用している方は注意が必要です。

慣れるまでは、意識しないと元の起き方に戻ります。まずは朝の一回だけ、意識してやってみてください。

💬 理学療法士のひとこと
膝を先に倒す。これだけで動作の質が変わります。手順を全部覚えられなくても、ここだけ持ち帰ってもらえれば十分です。


うまくできないときは、どこでつまずいているか

手順どおりにやろうとしても、途中で止まる方がいます。つまずく場所によって、対処が変わります。

横向きになれない場合

膝を倒す動きが出にくい、あるいは寝具が柔らかすぎて体が沈み、転がるのに力が必要になっている可能性があります。

寝具側が原因の場合、沈み込みが深すぎると、そもそも寝返りに体を持ち上げる力が必要になります。 起き上がり方を変える前に、寝具の沈み込みを確認する価値があります。

肘で押せない場合

肩や肘に痛みがある、または腕で体を支える力が足りていない可能性があります。この場合は無理に押さず、ベッド柵や、しっかりした手すりを使って引く方法に変えてください。押すより引くほうが楽な方もいます。

脚を下ろせない場合

ベッドの高さが合っていないことがあります。脚を下ろしたときに足の裏が床につかない高さだと、脚の重さを利用できません。腰かけた状態で足の裏全体が床につき、膝がおおよそ直角になる高さが目安です。

起き上がったあとにふらつく場合

動作の問題ではなく、血圧の変動が関係している可能性があります。座った状態で少し待つ、それでも改善しない場合は医療機関に相談してください。


寝具の側で変えられること

起き上がりのしやすさは、動作だけでなく寝具の条件にも左右されます。

確認1:沈み込みが深すぎないか

仰向けから横向きに転がってみてください。一度体を持ち上げないと転がれないなら、沈み込みが深すぎます。この状態では、手順2の時点で止まってしまいます。

確認2:端がしっかりしているか

ベッドの端に腰かけたときに大きく沈むと、そこから立ち上がるのに余計な力が必要になります。端の支えは、起き上がり動作の最後の局面で効いてきます。

確認3:高さが合っているか

端に腰かけて、足の裏全体が床につき、膝がおおよそ直角になるか。高すぎても低すぎても、動作は難しくなります。

確認4:手をつく場所があるか

ベッド柵や手すりを後から付けられる構造かどうか。今は不要でも、選択肢があるほうが安心です。

確認5:布団の場合は高さそのものが課題になる

床に近い位置からの起き上がりは、ベッドからとは別の難しさがあります。この点については別記事で詳しく扱っています。

寝具の選び方については、比較記事で解説しています。


医療機関に相談したほうがよい場合

次に当てはまる場合は、動作の工夫より先に相談してください。

  • 起き上がるときに脚のしびれや力の入りにくさが出る
  • 動作に関係なく、横になっていても痛みが続く
  • 夜間、痛みで目が覚める
  • 起き上がるたびに強い痛みが走る
  • 最近、転倒したことがある
  • 発熱を伴う

よくある質問

Q1. どちら側から起きるのがよいですか。

痛みが片側にある場合、痛くないほうを下にして起きるほうが楽なことが多いです。ただしベッドの位置や部屋の配置で決まっている場合も多いので、まずは今の側で手順を試してみてください。左右で明らかに差があるなら、その差自体が情報になります。

Q2. 腹筋を鍛えれば、そのまま起き上がっても大丈夫になりますか。

体幹の筋力があることは有利に働きますが、まっすぐ起き上がる動作そのものが効率の悪い方法であることは変わりません。鍛えるかどうかとは別に、動作は変えたほうが負担は減ります。

Q3. 朝だけ痛くて、昼間は平気です。動作の問題でしょうか。

動作の問題である可能性もありますが、寝ている間の姿勢が原因のこともあります。まず起き上がり方を変えて数日試し、それでも変わらなければ寝具側を確認してください。切り分けの順番としては、費用のかからない動作の見直しが先です。

Q4. 手順が覚えられません。

全部を覚える必要はありません。「膝を先に倒す」の一点だけでも、腰のねじれはかなり減ります。まずそこから始めてください。

Q5. 家族が起き上がるのを手伝う場合、どうすればよいですか。

上体を引き起こすのではなく、膝を倒す動きと、脚を下ろす動きを補助するほうが、双方にとって負担が小さくなります。引き起こす介助は、介助する側の腰を痛める原因にもなります。


まとめ

最後に要点を整理します。

  • 腰を痛めやすい起き方は二つ。ひねりが入りすぎる起き方と、まっすぐ腹筋だけで起き上がる起き方
  • 腰はねじる動きが得意な部位ではない。上半身だけを先に回すと、腰にねじれが集中する
  • まっすぐ起き上がる方法は、上半身の重さをすべて体幹の力でまかなうことになる
  • 手順は、膝を立てる → 体全体で横を向く → 脚を下ろす → 肘で押す
  • 脚が下がる力と腕で押す力を使えば、腹筋だけに頼らずに起き上がれる
  • つまずく場所によって対処が変わる。横向きになれないなら寝具の沈み込みを疑う
  • ベッドの高さは、腰かけて足の裏が床につき膝が直角になるのが目安
  • 全部覚えられなければ「膝を先に倒す」だけでよい

動作を変えても朝の痛みが残る場合、寝ている間の姿勢が関係している可能性があります。寝具の選び方については別記事で解説しています。

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